次の日、愛は昨日の事で頭が一杯になっていた。そして、授業が全て終わると美紗の元へ急いで向かった。
「あぁ、良かった。来てくれて...」美紗の方も珍しく愛を素直に迎えた。
「じゃあ、こっちへ来て」美紗が連れて行った場所とは―――体育館のギャラリーだった。

「いい?しっかり話を聞いて」
「...うん」
そして、美紗の壮絶なカミングアウトが始まったのだ。

「実は、私と悠美は前に...酷い事をしたの」
「...どんな事?」
「前に私達のクラスに香と聡子っていうのが居たんだけど...」
「...そんな先輩知らないよ...」
「まあ知らないと思うけど、とにかく話を最後まで聞いて。
私が中1の頃に、部活の後忘れ物に気付いてギャラリーに取りに行ったの。その時、そこから声がして...
その時私はもう学校に悠美しか居ないと思ってたから可笑しいと思って覗いてみたの。
そこに居たのは...香と聡子だったわ。あの会話は思い出したくなくても思い出される...
『何か、最近私のせいで聡子ちゃんに友達が出来ないんじゃないかって思ったんだけど...』
『馬鹿なこと言わないでよ!私は香が居てくれればそれで良いの!どうせ他人なんか...価値なんか無い...』
『本当にそう思ってる?』
『当たり前よ!それなら今ここでそれを証明するわ!』聡子はそう言って、香の...唇に...」
「まさか...」

「唇を...重ねたの...」

「...」

愛は時の間に言葉を失っていた。何か言い出そうにも、恐怖感がそれを拒んだ。
「確かに前から悠美や他の友達からあの2人は何か可笑しいとは聞いてたし、
私も何かあの2人が...嫌いというか何というか...同じ部活でも入り込めないような感じだってのは判ってた。
でもあそこまでなんて...誰も思わないでしょ...?」
「うん...思いたくない...」
漸く愛から息に紛れた言葉が出てきた。最早こんな事を受け入れる事自体が、辛過ぎた。

「その時、悠美が来たの。あまりにも戻って来るのが遅かったからって言ってたけど...
ギャラリーの様子に気付いた途端悠美じゃ無くなってた。
『ちょっと、何やってんの!なんで女同士でキスなんかしてんのよ!こんな汚れた事...人として恥ずかしいわ!』
何で悠美があんなに言い放ったのかは今でも判んない。過去に何か在ったのかも知れないけど...
私は知らないし...それに、その後がまた怖かったわ。
『そんなのあんたには関係無いでしょ!私達は結ばれてるの!運命よ!あんた達と違って私達は結ばれるべきなのよ...』
『うん...私と聡子ちゃんは大切な繋がり...』
『何馬鹿なこと言ってんの!あんた達なんか...!』悠美が...その時...2人を...」

「...突き落とした...」

「えっ!?」流石の愛も大声を出さずにいられなかった。
「えっ待ってそれって...犯罪じゃん...殺したって...」
「うん...そして、私はそれを止められなかった...やっぱり私も心底2人が...」

その時だった。愛と美紗は背後から気配を感じた。
恐る恐る振り返った2人の視界に入ってきたのは何だかよく判らないもの...
「...血?」それを覆う赤黒いものの正体が判るのには、それほど時間は掛からなかった。そして、その中には...

「悠美!?」
「先輩...!」

悠美は何か言いたそうに唇を動かしていたが、全く聞き取ることが出来ない。
やがて彼女は力尽き、その身体は愛の腕へと堕ちた。
そして、何処かから轟く声―――
コレハ、オ前ヘノ仕返シダ。何モカモ消シ去ッテヤル―――
誰も居ない体育館。そこにはただ夕陽に照らされる空間だけが映し出されていた。

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