何も無いただ暗闇の広がる世界、彼女は瞳を閉じた。

2つの世界の境目を歩む頃、何処かから響く声―――

振り返ろうとはしなかった。今はこの先の「未来」が知りたかったから...悲しみも、苦しみも、想い出も、全て忘れたかったから...


悠然と聳える大樹。幼き心の傷など何事でも無いかの様に受け止めてくれていた。

それでも、彼女の見たその姿には自らの傷を感じる他無かった。傷みを覚えたその姿...

握り締めてた白妙の紐に雫が堕ちて―――その地に沁みた。何時しか跡形も無くなり往く雫。

その紅髪と紅瞳を恨む邪なる心は、自らを儚く散らせるものに他ならなかった。

今の自分を辛く、哀れに、そして、無意味なものとして...夢を失くした小さな物心...

たった一言だけ、彼女の声が耳に残る。自らの名前が最後に胸へと刻まれる頃だった。

そして、旅立つ―――遺した想いにも気付かぬまま...



跡に残る花びらの舞。彼女を労わるかの様だった。しかし時は流れ往くもの―――全てが遅かった。

笑顔はやがて失せ、力を失くして潰えていった。誰にも何も思われぬまま...



紅く色付く桜花の咲く頃、硝子の歯車は水晶色に染まり始める―――

←back →next
back to novel
back to top
Copyright (C) 綾瀬 , All rights reserved. 2007