「奈緒!」

咲き乱れる桜に見入っていた奈緒を我に返らせたその声の主は、彩だった。

「いつまで見てんの?もうすぐ始業式始まっちゃうよ?」
「別に良いじゃん...もうすぐって言ったって未だ10分ぐらいあるんだし。それに...こんなに紅いのって珍しくない?」
「確かに...」

つい何分か前までは昇降口にあったボードを見て再び同じクラスに入れた事を喜び合っていたが、
今ではすっかり気持ちが初めて入った教室にある大きな窓から見える景色に傾いている。

何処までも美しく華麗で、そして儚く切なく...まるでそこだけ時間が違うかの様に...

「とにかくもう廊下並ばなきゃ行けないっぽいから、行こ!」

今は時間が奈緒に思いに耽らせるのを邪魔するものに他ならなかった。
今は式に行くしかないのだ。
妙な感覚に囚われたのを気にしながら、彼女は教室を後にした。

体育館の湿って暖かくなりかけている空気が何だか鬱陶しい。
こんな中では人の話も聞く気になれない。
司会の先生が何処かで何か喋っている様だが何を言っているのかも判らなくなる。

「...えー。ただ今より花梅市立花梅東中学校入学式及び始業式を始めます。一同起立!」

眠気が少し弱まってきた頃、司会の先生の声がスピーカーから響いてきた。
今回は入学式と始業式が一気に行われる。
その為にやたらと時間がかかった。

新入生の名前が1人1人呼ばれ、その後は校長の長話だ。
これが1番鬱陶しいものだろう。

「皆さん、初めまして。今年度からこちらのかうめ...ぁー失礼。花梅市立花梅東中の校長となりました小野と申します。」

「...思いっきり間違えてるし」
「そういえば校長変わったんだっけ?いくら初めてだからって学校名間違えられるのは...ねぇ?」
「だよね...「花梅」が「こうめ」って読む事位判っててくれないと...」
校長の話をよそに、奈緒と麻依はこっそり喋り続けていた。

漸く式が全て終わって教室に戻ると、早速着替える暇も無く担任に席に着かされた。

「今日から此処3年4組を担任する原嶋だ。皆、今年も宜しく。」
そう言うと、彼はクラスの人の名前を一通り確認した。

(あぁ、原嶋かよ...マジ最悪)

原嶋は決して生徒に嫌われるような感じの教師ではない。
しかし、やたらと自分に注意してくるのが彼女にとってたまらなく嫌だった。
とにかく彼は奈緒に関して規律、特に服装などの見た目をとても気にする。

「さて、今年の学年目標は「規律正しく生活しよう」だ。今年は受験もあるんだからな。」
もはやこんなの決まり文句にしか過ぎない...と奈緒が呆れていた時、

「おい、高野!寝てんじゃない!誰か起こしてやれ!」
突然の大声にさすがに彼女も目を彼に向けた。
その声の対象は、彼女の左側に居た。

高野恭介。小学校から一緒で、何だかんだ言って同じクラスになるのはもう4回目だ。
彼の隣の子がいくら起こしても気付く様子が無いので、奈緒は仕方なく彼を起こしてあげた。

「...何でこんな白けてんだ?」
「...その原因が言うなよ。」

もうこんな彼に付き合う暇も無いと思い、彼女は目線を反らした。
原嶋の話が何処までも長く感じた。

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