光は少女の身体を包む。
そして、力を奪われた彼女と共にこの地を離れ、浮かびゆく...

光は闇を照らすもの。
しかし、闇を懐いた光は深き傷を照らすのみ...

あの時に見た風景、そして光景。
響く声、大いなる大樹、心の痛み、潰えた夢...
闇光は過去の傷を少女に照らしながら、共にこの世界へ降り立つ...

部屋から光の消えた頃、麻依と彩は眼を開いた。
そして、光の齎した異変に気付く。

「奈緒が居ない...」

2人は直ぐに判った。
その理由がさっきの光にあった事を。
しかし、どうすれば奈緒が戻って来るのかは判らなかった...

生命を感じさせない鈍色の大地。
妙な程に無気味な紅掛花色の空。
2つのものは絡み合う事無く広がり、無気味さを強めている。

涙に濡れた瞳を開くと、そこには今まで見た事の無い様な世界観が目に入ってきた。

それは、過去の記憶を表したかの様に...

奈緒は言葉を失っていた。余りにも光景が違い過ぎたから...
数秒前までは麻依の家で結界紅水晶について調べてたのに...

手にはあの紅水晶があった。
あの眩しい光の中、ずっと握り締めていたのだろうか...?
彼女にはその記憶が無かった。

(このまま座り込んでる訳にもいかないし...でもどうやって麻依の家へ...)
そう思い始めた頃。

奈緒は足元に違和感を感じ、その場を見下ろした。
そこには掌に乗る位の大きさの殻に覆われた黒い虫が何百何千、むしろ何万...

「...いやあああああああああああああ!!!」

唯でさえ奈緒は虫が嫌いなのだ。
こんな状況ではパニックになるのは言うまでも無い。

普通なら手で払ったりすればどうにかなるかもしれないが、そんな事も出来ない位虫が増え続けている。
最早どうすれば良いかも判らなくなりかけ、殆ど無意識に体が動くようになっていた。

無我夢中になっていたその時...

結界紅水晶の中にある幾何学模様が輝き出した。

その輝きは最初は微かなものだったが、やがて強くなっていった。
そして輝きは紅い光となり、奈緒を包む。
そしてその光は広がり、何時しか遥かに大きなものとなっていた。

しかし、光が広がると共に奈緒の意識は薄れつつあった...

奈緒が眼を覚ました時、既に虫は何処にも居なくなっていた。
そこにはただ彼女を包む大いなる紅い光があっただけだ。

(これが...結界?)

現実の世界なら結界など無いと多くの人が言うだろう。
しかし、今此処に結界が自らの身体を包んでいるのだ。

彼女は混乱した。
まるで非現実なファンタジーの世界に巻き込まれた様な感覚がするのだ。

生命を感じさせない鈍色の大地。
妙な程に無気味な紅掛花色の空。
これを非現実と言わないのなら何と言えば良いのか...

奈緒は動く事が出来なかった。
きっと今の結界で体力を相当使ったのだろう...

(......)

そして彼女は眼を閉じた。
今は体力が限界まで達していたから...

「...?」
眼を覚ました時、さっきまでとは違う場所に居た。

どうやら家の中のようだ。しかし麻依の家ではない。
奈緒は古めかしい天井から眼を反らしてみた。

「眼が覚めた様だな。」

その方向には人が居た。誰だか判らない。
さっきまで居た場所と同じ鈍色のローブを羽織り、顔が隠れている。

奈緒は誰なのか尋ねようとしたが、なぜか声が上手く出てこなかった。
「元の場所に戻りたいだろう。なら、そこの魔法陣に乗りなさい。」

すると、あれだけ疲れきっていたはずの体が軽くなり、足は自然と魔方陣の方へ向かい始めた。
部屋の隅にあった魔法陣に乗ると、辺りは闇に包まれ、体が浮かんで行くような感覚がし始めた。

浮かぶ様な感覚が続く中、何処からか声が響く。

(どうやら本当に結界を見出した者が現れたようね...)

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