「.........ぉ......な...お...」
何処からか自分を呼ぶ声が聞こえてくる。

「......奈緒...」
その声は少しずつ近づいて来ている...そんな気がした。

「...奈緒!」

彼女が眼を開いた時、そこには自分が元居た場所と同じ光景が広がっていた。
2人の少女が今までずっと自分の事を呼んでいたらしかった。

「あっ...彩...麻依...戻って来れたんだ......あたし」
奈緒はやっと元の世界に戻って来た事を実感した。

(それにしても、今のは一体何だったんだろう...夢だったのかな...)

その後暫くの間奈緒はさっきまで居たあの謎の場所の事について考えていた。
夢にしてはやけにはっきりと記憶に残っている。
生命感の無い地面。妙な色の空。
ぞっとする様な恐ろしい数の虫...
しかも、思い出せば思い出すほど頭が痛くなってくる。何故なのか―――理由は判らない。

「大丈夫?何か顔色悪そうだけど...」
麻依が心配そうに声をかけてきた。

「あ...やっぱり?何かさっきの事を思い出したら頭痛くなってきちゃってさ...」
「何があったかは知らないけど、無理して思い出す事無いと思う。ゆっくり休んだ方が良いんじゃない?」
「うん、ちょっと休んだら取り敢えず一旦家に帰ろうかな...」
「その方が良いよ。無理したら余計酷くなるよ?」
「そうそう。帰りは私が一緒に行くから、ね」
「判った...」そう言って、奈緒は少し横になる事にした。

「じゃあ、そろそろ帰ろうかな...」
気がついたら少し眠っていたらしく、空はやや暗くなりかけていた。

「もう大丈夫?帰り気をつけてね」
麻依に見送られ、奈緒は彩と共に自転車をこぎ始めた。

「ところで、あの時一体何があったの?無理して思い出さなくて良いけど...」
「えっと...何て言うか、まず明らかに普通の感じがする場所じゃなかったんだよね。
空は変な色だったし地面も変な感じだったし...後虫が物凄い出てきたんだよ、確か」
「虫?あぁ、そういえば奈緒虫嫌いだったっけ...」
「これ以上思い出そうとすると頭が痛くなってくるから...」
「そっか...ごめんね、嫌な事思い出させちゃって」
「今は大丈夫。でも何であんな所に行ったんだろう...夢じゃないんだよね...」
「確かにそうだよね...少なくともその数分間は居なかったよ?」
「そうなんだ...まあ、深く考えても仕方ないよね。気にしない気にしない!」
「それなら良かった!じゃ、また明日ね」
「うん、また明日!」
奈緒は彩と別れ、1人で家へと向かっていった。

(そうは言っても、やっぱり気になっちゃうんだよね...)

途中にある公園で、奈緒は自然と足を止めていた。
そして、自転車をベンチの方へ進めて腰を下ろした。

「ふぅ...」自然とついた溜息が妙に脳内に響く。

(一体何なんだろう、この水晶は...
凄く綺麗なのに何処か恐ろしい...
多分原因はさっきの奴にあるんだと思うけど...
そういえば確か戻る時に声が聞こえて来たような...
何て言ってたのかな?もう覚えて無いや...)

いつの間に物思いにふけっていた。
もうさっきの様な嫌な頭痛こそしないものの、すっきりしない気持ちは残っていた。

やがて顔を上げると、公園の外に誰か居たのが見えた。
(誰?)それが誰かは本人が奈緒の元へやって来た事により判明した。

「あれ?奈緒じゃねーか。何でこんな所に居るんだ?」
「...誠吾?って、まあ他に誰も居ないけど...
何でって...ここもろ近所だし!普通に居ておかしくないから!ってかそっちこそ何でこんな所に居る訳?」
「塾の抜け道だよ、ぬ・け・み・ち!いつもなら誰も居ないのにさ...」
「はいはい、此処に居て悪かったね」
「いや別に悪くは無いけど...」
「あれ、でも確か誠吾って恭介と同じ塾だったっけ?だとしたら2人で行ってるのかなって思ってたけど」
「ん〜まあ普段はそうだけどな」
「普段?」
「ああ。でも今日いつもの時間になっても来ないから先に来ちまったって話さ。つか恭介見なかった?」
「そういう事ね。恭介なら見てないけど?今日ずっと出かけてたからこの辺通ったとしても見てないし...」
「そうか、判った...ってやべ!もうこんな時間じゃん!じゃ、俺塾行くから。じゃあな」
「うん、じゃあね」
奈緒は軽く誠吾と別れを交わした。
(塾行ってる人は大変だねぇ...)

その日の夜、突然携帯が鳴り出した。
雑誌を読んでいた奈緒は思わず直ぐに携帯を手に取った。

「恭介から?珍しいなぁ、普段全然メールなんて送って来ないのに...」
開くと、そこにはこう書かれていた。

〔今日誠吾に会った?〕

(相変わらず素っ気無い文章...)
そう思いつつ、取り敢えず逢った、とメールを送った。

〔その時何か言われた?〕
〔そういえば「恭介見た?」って聞かれた様な...でも見てないって答えたよ〕
〔そりゃあ逢ってないからな。まあ良いや、用件それだけだし。〕
〔ところで何でそんな事聞くの?〕
〔そこはちょっと秘密だ。色々あってな。まあ、ありがと〕
〔秘密なんだ...まあそこは敢えて聞かないでおくよ〕
そこでメールは途絶えた。

(一体何が聞きたかったんだろう、よく判んないなぁ...)

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