「おはよう!」
「あ、おはよ!」

翌朝、学校へ行く途中に奈緒は彩と出会った。

「体大丈夫?昨日は本当に顔色悪かったけど...」
彩が心配そうに声をかけてきた。
「うん、もう大丈夫だよ。昨日はマジで訳判んない1日だったわぁ...」
「奈緒にとっては災難な1日だったよね...」

そう、考えてみれば昨日は何もかもがおかしかった。
そもそも春休み中の補習初日までは誰も学校には行ってなかったはずだ。

なのに机の中にはあの箱があった。
あたかもプレゼントの様に...

入っていたものも普通にあるようなものではなかった。
気持ち悪い位鮮やかな紅色を放つ水晶。
しかし、その透き通る姿は余りにも美し過ぎた。

中に見える幾何学模様は常に回る様な動きを見せている。
それは、その模様が中に彫り刻まれたものではないという事を表していた。

「結界紅水晶」の名を持つそれは、奈緒を不思議な世界へと導いた。
背景、謎の人や声、魔法陣...やたらと非現実的であった。

中でもその不思議さを最も引き出したのが、追い詰められた時に現れたあの光...
やはりあれが結界なのだろうか?
...きっと誰も信じてくれないだろうけれど。

「本当だよ!何あの意味不明さって感じだし!」
「だね、本当にお疲れ様だよ」
「まあそりゃあねぇ...」
微妙に的外れな発言に、奈緒は肩をすくめた。

「あぁ、そういえばあの後誠吾に逢ったのね」
奈緒はふと思い出した事を何となく口にしてみた。

「誠吾君に?何で?」
彩は聞き返してきた。

「塾の抜け道だとか言ってたんだけど、あたしの家の方に塾なんてあったっけ?」
「私は知らないなぁ...」
そう言ってお互い顔を見合わせた。

あの時にはそんな事全然頭に無かったのだが、奈緒の家の方面にある塾など1つも思い当たらないのだ。
だとしたら、誠吾は嘘でも吐いたのだろうか。
しかし、何の為に...?

「あ、判ったかも〜」
「え、マジ!?」
「きっと奈緒の方面でもっとずーっと奥に何か塾があるんだよ!」
「えぇ?そうかなぁ...」

奈緒はもう1度その時の状況を思い出してみた。

「確かあの時は誠吾があたしに恭介見なかったかどうか聞いてきたんだっけ...
で、逢ってないって答えて結構直ぐ時間が無いとか言って走って行っちゃったんだったかな...
まあ一応誠吾が塾行ってる事は知ってたし、確か恭介も同じ塾に行ってるって聞いてるけど
何処の塾かまでは知らなかったからそんなに不思議に思わなかったし...
あ、そうだ。自転車とか乗ってなかったんだよね。普通塾とか行くなら近くても自転車じゃない?」

「そう言われてみればそうだね...」
「何でかな?」

「う〜ん...あ!判った〜」
「え?(何か嫌な予感...)」
「きっと体力つけようと思ってランニングしながら行こうと思ったんだよ〜」
「そんな訳無いじゃん...」奈緒は溜息をついた。

(はぁ、彩ってやっぱ天然入ってるよ...)

やがて2人は学校へ辿り着いた。
そこには華々しく咲き乱れる桜の大樹が出迎える様に聳え立っていた。
「やっぱ思うんだけど、今年の桜は尋常じゃないよ...」
「確かに凄い綺麗だよね〜。しかも、桜なのに紅い...」

「ん、紅...?」

「どうしたの?」
「ちょっと待って。」
そう言って奈緒はバッグの中を探り始めた。

「もしかしてあの水晶持ってきたの?」
「うん、えっと...あぁ、あったあった」
奈緒がバッグから紅水晶を取り出した時、

「...お前ら何やってるんだ?」
不意に後ろから声を掛けられ、2人共一斉に振り向いた。

「あれ、今日早いね〜」そこに居たのは恭介だった。
「確かに。いつも遅刻ギリの1歩手前に来る恭介とは思えないわ」
「俺はそんなに遅刻魔じゃない」
奈緒の言葉を恭介はクールに返した。

「...まあ良いや。で、どうしたの?普段うちらに声かけるなんてめったに無いじゃん」
「ちょっと昨日のあれが気になってな」
「誠吾の事?あ、それとも...こっち?」奈緒は恭介に紅水晶をちらつかせた。
「そっちの方だ。ちょっと見せて貰って良いか?」
「良いよ!」と奈緒が恭介に紅水晶を渡そうとした、

その時である。

「桜の花びらが...」

不意に彩が桜を見上げた。

「?」2人もそれを見上げた時、桜の紅い花弁が急に散り始めた。

「何か嫌な予感がまたするんだけど...」
「嫌な予感?」
「おい、それよりあれ...散り方がヤバくねえか?」

そう、桜は3人を包もうとしているかの様に花弁を猛烈な勢いで散らせていたのだ。
そして、あっという間に花弁で何も見えなくなってしまった。
そう、桜は3人を包もうとしているかの様に花弁を猛烈な勢いで散らせていたのだ。
「これは絶対またあれと同じ様に...来る!」

「うわああぁあぁああああぁああああぁぁあ!!!」
その叫びは花弁の中に吸い込まれていった。

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