水晶よ、闇を映せ。未来の闇を映し出せ。それが、私の楽しみだから...

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身に凍みる冷たい風の吹く頃、いつもと変わらぬ大通りを歩く3人の少年が居た。
この寒さのせいか、彼らは殆ど言葉を発せず、ただ小さくなりながら歩き続けるだけである。


彼らの周りにも歩く人々が溢れている。
皆無言のままこの道を抜けてゆく。
そこには何の変化も無かった...はずだった。


目的地である学校に辿り着いた時、突然少年の内の1人、森田が
「あ、そうだ。面白い話があるんだ。後でお前らに話してやるよ。」と言った。


「でさ、さっき言ってた面白い話って何だよ?森田、早く教えろよ。」
校舎の中の生温い空気に慣れてきた頃、先程の少年の一人、須藤は話をせがんだ。


「知ってるか?最近、この辺りに占い師が出てくるって。」
「何それ?知らないし。ってか『出てくる』って幽霊じゃないんだからさ...普通に『居る』とかで良いじゃん。」
「いや、それが『出てくる』なんだよ...ここ結構重要でさ。その場所に行っても居るとは限らないんだ。」


「...そもそも占い師って言ってるけど、どんな人?」


それまでずっと黙っていた永井が、この日初めて口を利いた。


「まあこれは聞いた話だから俺も実際は良く知らないけど、
その占い師は神出鬼没で現れたり現れなかったりするらしい。
しかも夕方から夜にかけてしか出ないって聞いたからな。本当にそうかどうかは知らないけど。
それで、見た目は何かいかにも怪しい、って感じで、喋り方は癖とかは無いみたい。」


「で、占い方とかは?」


「えっと...確か...あれ何て言ってたっけ...ごめん忘れた。
でもただで占ってくれるって事は覚えてるから。しかも、絶対当たるらしいし。」
「それって実際当たった人とか居るのか?」
「えー...実際に当たったって言ってた人は居ないけど、とにかく当たるらしいから。」


「じゃあ何で当たるって言えるんだよ?」
「それは...」


ほんの少しの間だったが、妙な気まずさを持った沈黙の時が流れた。


「それは...その...占いの結果がいつも不吉だから...」
「不吉って...」


「何て言うか、まずどんな人を占っても良い事は絶対言わないんだ。
必ず不幸な事を言って、そして最後は死ぬ様に話の流れを向ける。それが、占いの特徴らしい。」
「でも、たかが占いだろ?それにお前、当たったって人知らない訳だし。」
「そうは言っても何か怖くなってきた...何で不幸な事しか言わないんだろう...」
「だから、それを確かめようと思うんだ。今度占って貰いに行かないか?」
「おー、面白そうじゃん!良いぜ!占ってもらおうじゃねえか!勿論お前も行くよな、永井?」


「え...いや...その...」
「何だ?怖いのか?臆病だな。じゃあ他の奴でも誘おうか。」
「そうだな。こんな奴と一緒に居たら楽しみも減るし。」
「もし行く気になったら言えよ。そしたらお前を男として見てやるから。」


そう言って、須藤と森田はクラスの他の人たちへ占い師の事を広めようと席を立った。
1人残された永井は、そんな2人を複雑な想いと共に眺める事しか出来なかった。


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