(何で森田は須藤があの路地裏に居ると思ったんだろう...?
何の根拠も無いはずなのに...)
2人でその路地裏へ向かう間、永井は色々と考えにふけっていた。


(何でかは判らないけど、もしかしたら須藤の血を採ろうとしてるのかも...
まあもし占って貰ってたらの話だけど、最初の話からして多分占って貰ってるだろうし...
何なんだろう...それに、何で須藤を狙うんだろう...?
もしかして何か恨みでもあったのかな...?)


そして、2人は路地裏の前まで辿り着いた。
「...本当に此処に居ると思ってるの?」
「居ないと思ったら此処に来る理由も何も無いだろ?」
「でも...何で?」
「何だって良いんだよ。早く行くぞ。」
森田は早く早くと言わんばかりに路地裏へ入って行った。


(あ...)
そこには本当に須藤が居た。


「はは...まさか本当に居たとはな。」
森田の言葉に須藤は全く反応しない。


(え...!?どういう事...?
本当に居るって根拠は無かった訳...?)


「昨日後1日って言ってたな。今日がタイムリミットなんだろ?
それならお前の血はあった所で何にもならないな。」
須藤はそう言って、やや大きいナイフを取り出した。


「やれるものならやってみろ。それより俺には時間が無い。
お前の血を採ればそれまでだ。最初は...」


その時、近くに積んであった大量の木箱が突然崩れ落ちた。
地震があった訳でもなく、ただ突然崩れたのだ。


「!?」
その木箱は森田の頭を直撃した。
「何でだ...あと少し、早ければ...
俺の計算が...狂うなんて...」
倒れ込んだ森田はそう言って、動かなくなってしまった。


永井は絶句した。
『今日がタイムリミットなんだろ?』さっきの須藤の言葉が頭をよぎる。
(あの事は、本当の事...!)
森田は1週間前に占って貰った。
そして、今日今此処で実際死んでいる。
永井の体を寒気とも何とも言えない感覚が走った。


永井が我に返った時、須藤は森田の傍らにかがんでいた。
「そんな事よりまずは血を...!」
そう言って、須藤は森田の髪をどんどんナイフで切っていった。


頭蓋骨に穴が開いているのが遠くに居た永井にも判った。
木箱の衝撃が目に見える。
骨が砕け散っていて、その下から脳が見え隠れしていたが、そんな事は須藤には関係無かった。
何より、まずは血が必要なのである。


須藤はその骨が砕けた部分に口をつけ、血を吸い出そうとした。
しかし思う様に吸えない上に、骨や脳の一部まで口の中に入ってしまい、須藤は思いっきり咳き込んだ。
(これじゃ全然足りないじゃないか......そうだ、首がある!)
そして、持っていたナイフを森田の首に刺し、力を込めて皮膚を裂いた。
まだ生ぬるい血が少しずつあふれ出てきた。
(今度こそちゃんと血が吸える...)
須藤は再び口をつけた。そして、塩辛い血を吸い続けた。


その時永井は、何も出来ずただ立ちすくんでいた。
(駄目だ...やっぱり僕は何も出来ない...
こんな事をする位なら、いっその事死んだ方が良いかも...
普段から須藤達には散々からかわれ続けてたから恨んではいたけど...
だからこれをきっかけに殺してやろうかとも思ったけど...
そんな事は...出来ない!)


「あぁ、もう倒れそうだよ...この場に居たくない...」
思わずまた本音が口をついて出てきた、その時の事だった。


「それならすぐに全て楽にしてあげましょう」


背後から突然声が聞こえた。何処かで聞き覚えのある声...
「...うっ!!」
振り返る間も無く、永井の背中に激痛が走った。
(一体、今のは...?)
そして、永井は意識を失ってしまった。


「さてと、こんなもので良いかな...」
森田の血を吸えるだけ吸い終わった須藤は、口の中を真っ赤にして呟いた。
「終わったんだ...」
やっとこれで死の危機から開放された、そう思うと一気に力が抜けて、座り込んでしまった。


「これで終わりとでも思ったのですか?」


突然脳内に響き渡った声に、須藤は思わず体をすくめた。
見上げると、そこには黒い影が...
寂し怪しい雰囲気...昨日も見た、その姿。
「あ、昨日の...」
須藤はそれしか言うことが出来なかった。


「人1人分の血では3リットルも吸えませんよ。
いや、正確に言えば吸えるのですが、全て吸い切らない限り無理なのでそれは相当大変なものです。
あいにく、私も貴方がたのように血を吸っていかなければ生きられない立場ですのでね。
人間の血が死神の原動力、すなわちエネルギーと同じなのです。」
「死神...!?」
「そうです。黙っていなければ人間と接する事は出来ませんのでね。
そして既に今週は1人分は吸っていますからね。
今丁度貴方が2人目になろうとしている所なんですよ。」


その時、須藤の視界にもう1つの体が入ってきた。
もう動く事の無い...永井のものだった。


「逃げた所で無駄ですよ。
そんな余裕も無いと思いますけどね。」
そう言って、その占い師...いや、死神は目にも留まらぬ速さで須藤の腹部を切り裂いた。


「この方が簡単に血を吸えるから楽なんですよ。」
目の前が真っ白になった須藤の耳に最後に響いた声だった。


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