凍り付く様な風の吹く冷たい日。しかし、今日は寒がっている場合ではない。
大切な日を目の前とした準備があるから―――

暦の上で冬が終わってもまだまだ寒い日は続く。
それは、きっと心にも未だ残した想いがあるから―――

朝からコートを着込み、ペダルを漕いで店を廻る。
あまりお金は無いけれど、少しずつ大切なものを選んでく。その目はまさに真剣勝負。
本当は全てを自分の手で作りたいけれど、それが出来ないから代わりに自分でいいものを選び出す。

家に帰ったら直ぐに品物を取り出す。そして、早速メインに取り掛かる。
エプロンを付けて、手を洗って、お湯を沸かして...
その手際はあまり良くなかったけれど、それでも一生懸命になりたかった。
自分の想いをどうしても形にして伝えたかったから―――

ボウルの中に在る溶けたチョコレート。少し手に取り舐めてみた。
甘みの中に溶けた微かな苦味が大人っぽい。
これが恋なのだろうか...ただ甘いだけでは終われない、それが恋だ。

ちょっと前に作っていたホイップクリームを混ぜ合わせ、新たなる甘みのハーモニーを繰り出す。
何も判らないままに初めて作り出したものだ。どうなるかは判らない。
それでも、挑戦を辞めようとはしなかった。貴方への想いが強かったから―――

スポンジも、材料を混ぜて自分で作った。分量がよく判らないから、本を見ながら。
卵やメレンゲを入れた後に、切るように混ぜるのが上手くいかない。
焼いてみた所で、何だか萎み気味。しかも何だか焦げているような気もする。
でも諦めない。絶対に伝えてみせる。この想い...


時間も掛かって少し形も整っていないが、漸く完成した。
これが、貴方に伝えられる私の精一杯の気持ち...
どうか、こんなものでも、受け取ってくれれば...嬉しいから...

貴方からの返事は未だ来てないけれど。私は後悔していない。
だって、自分の思いが伝えられたから―――
もし貴方の答えがどんなものだったとしても、今なら受け入れられるから。
それが本当の「恋心」...

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